この問題の詳しい総説(英文)html pdf
ベンゼンは不飽和結合を含んでいるにもかかわらず,非常に安定な炭化水素化合物です.その安定性の由来は,環状構造による特殊なπ電子共役によると長い間信じられてきました.この特別な安定性を芳香族性とよび,有機化学ではもっとも基本的な概念の一つです.
ところが,ベンゼンにおけるπ電子の役割に疑念を投げかけるいくつもの論文がShaikという人たちによってアメリカ化学会誌を中心に発表されました.アメリカ化学会誌は化学をリードする雑誌ですので,有機化学者のとまどいは容易に想像されます.
私はこの問題を検討した結果,彼らの論文はすべて間違いで,間違いの原因は「研究手法として分子軌道法を用いたが用い方が間違っていた」ことを明らかにしました.量子力学の基本的知識に欠いていたのが原因だったのです.
驚くべきことは,このような単純な間違いに論文審査員がだれも気づかず出版を許したことです.アメリカ化学会誌の審査員はいわゆる一流と自他共に認めている化学者がつとめています.これは,一流といわれている化学者の中にすら量子力学の基本的知識が正しく浸透していないことを露呈するものでした.
日本語による概説
ベンゼン分子のπ電子の役割の問題
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