飽和化合物に比較してπ結合を持つ化合物は不安定で試薬と反応を起こしやすい.例えば二重結合は容易に臭素と付加反応を起こし,臭素の色は脱色されます.ところが,benzeneは分子内に3個の二重結合を持つにもかかわらず安定であり,臭素を加えても脱色されません.benzeneの他,naphthalene, anthracene, phenanthrene も不飽和化合物にもかかわらず化学的に安定な性質を持っています.このようにある種の環状不飽和炭化水素は異常な安定性を示し,芳香族化合物 (aromatic compounds)とよばれています.「芳香」の由来はこの系の化合物は(鎖上の不飽和炭化水素に比べて)一般に芳香を有するからですが,現在では「芳香族性」は芳香と関係なく,特定の環状不飽和炭化水素の持つ安定性を意味しています.有機化学では,芳香族化合物の安定性は共鳴構造(resonance structure)という概念で説明されています.例えば,benzene では

                           
の共鳴構造をとります.ここで,←→は,benzene 1でも 2でもなく, 1 2の中間の電子構造(electronic structure)であることを示します.つまり,共鳴構造をとることにより二重結合の固有の性質は消失するというのです.この考え方はかなり有効でほとんどの芳香族化合物の安定性をうまく説明できます.しかし,全く説明できない場合もあります.cyclobutadiene (3, 4)は,共鳴の考え方を適用すれば,3 ←→4 のように共鳴し,benzene のように安定となるはずですが,常温では存在できないほど非常に不安定な化合物であることが知られています.

                            
芳香族性/反芳香族性現象は,ヒュッケル分子軌道法で定量的に説明できることが知られています.私どもはヒュッケル分子軌道計算の意味を調べていく過程で芳香族性/反芳香族性現象の問題の解決を得ました.

根本的問題点

芳香族性/反芳香族性現象の問題に対する答え

ヒュッケル分子軌道の軌道準位に関するHoberの数学的結果とヒュッケル分子軌道と[箱の中の粒子の問題]の解の類似性を調べた結果次のような結論にいたりました.
1.ヒュッケル分子軌道と[箱の中の粒子の問題]とは数学的に同等であり,前者はLCAO法を用い後者は解析解を求めている.
2.環状不飽和炭化水素のπ分子軌道の最低エネルギー準位の軌道に入る電子の運動エネルギーが0となる.この軌道のzそんざいが,芳香族性/反芳香族性の原因である.
3.benzeneとcyclobutadieneのab initio分子軌道より0運動エネルギーのπ分子軌道の存在は確認できた.

発表
  2001年分子構造総合討論会
  Int. J. Quantum Chem. 87, 135-144 (2002)

環状不飽和炭化水素の芳香族性/反芳香族性出現の理由

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